島根県の最西端に位置し、山口県との県境に位置する益田市。益田には、太古のロマン感じる出雲大社や世界遺産の石見銀山のような、大きな観光地はありません。だがそのディープさがむしろいい!中世日本を体験できるまちとして日本遺産に認定されているところも、まさにディープ。一方でフルーツやコーヒーにこだわりを持つカフェ巡りや温泉付きデザイナーズホテルなど、まだまだ知られていない魅力的なスポットがいっぱいです。
お気に入りの場所がきっと見つかる、“とっておきの島根・益田”を旅します。
1日目
益田市は、益田駅を中心にホテルや飲食店が立ち並び、駅から車で約10分も走れば海遊びや山トレッキング、川アクティビティなどができるスポットへアクセスでき、観光するにも暮らすにも“ちょうど良い”町です。東京・羽田への航空便が離着陸する萩・石見空港までも、なんと車で10分圏内と利便性の良い地域だと言えます。
一方、益田市は島根県内で最も大きな市町村であり、中山間地域も広がっています。気候や自然を生かしてゆずやわさびが育てられ、酪農も盛んです。
色んな魅力を持つ益田市ですが、日本海を流れる対馬海流のおかげで、県内では比較的温暖な場所として知られています。それゆえ、フルーツの栽培が盛んであることも特徴のひとつ。
益田のグルメを堪能すべく、まずは駅前の「カフェモリタニ」へお邪魔しました。
地元でも長年親しまれてきた駅前のフルーツショップが、2020年12月に白亜の美しい店舗にリニューアル。洗練された雰囲気の居心地の良さを感じさせるカフェへと生まれ変わりました。
地元産だけでなく、バリエーション豊かな季節の果物を使ったフルーツサンドやスイーツを楽しむことができます。
贈答用のフルーツや生ケーキもあり、みずみずしいいちごやマスカットが並んでいました。
地元の工芸品やお酒、気軽に買えるおみやげなども置かれています。
駅前という好立地だけに、ちょっとしたものが購入できるのはうれしいですね。
旬のフルーツをたっぷり使うパフェは人気のメニュー。
7種類のフルーツが乗るフルーツパフェが人気とのことですが、この日はいちごパフェ。
クリームは砂糖を控えめにし、甘さを押さえめ。アイスは、吉賀町山吹グリーンファームのジャージー牛乳を使用したもの。濃厚でコクがあるのに後味さっぱりで、フルーツを主役に据えるにぴったりのアイスです。
グラスの一番下にはゼリーを置き、脇役たちの中でフルーツがぐっと引き立つ構成になっています。
みずみずしいフルーツをほおばる幸せ。
ビタミンたっぷりで、お肌にも良さそう。
時期のフルーツはインスタグラム(https://www.instagram.com/moritani55/)でも発信されています。
益田に行く時にはぜひチェックして、おいしいフルーツに出会ってください。
美味しいパフェを堪能した後に向かったのは「金吉屋酒店」。
日本全国の日本酒、焼酎、世界のワインを取り扱うお店です。
酒蔵にも訪問することになっていた今回の旅ですが、「酒を飲むなら酒を扱っているその道のプロに聞け!」ということで、金吉屋酒店の福原さんに実際にお酒を手に取りながら、あれこれとお話をお伺いしました。
昔はしっかりめのお酒が多かった島根も、最近ではバランスが良く甘口も辛口も、色んなお酒が揃うところが魅力。そんな話をしてくれた福原さんが私のために選んでくれた一本がこちら。
桑原酒場「扶桑鶴」。
桑原酒場は、創業120年を迎えようかという、地元・益田の造り酒屋。清流・高津川の伏流水を使用しており、代表的銘柄「扶桑鶴」でも、手間暇をかけ袋で一滴一滴落とした袋吊り。フレッシュな味わいで、常温でおいしくいただきました。
そのお酒の飲み頃や、熱燗・常温・冷やなどの飲み方もアドバイスしてくれ、火入れしていないお酒に関しては、瓶内熟成による飲み頃なども教えてもらえます。
お酒にまつわる楽しいお話も聞かせてもらえるので、声をかけていろいろ質問してみるのもいいですよ。
町の中に溶け込むように点在するのが、歴史スポット。
特に益田ならではなのが「雪舟庭園が2つもある」ということ。
どちらもタイプが違っていて、かつ、見応えあります。
ひとつが「萬福寺」の庭園です。
「須弥山(しゅみせん)」は古代インド仏教の世界観で、その仏教世界の中心にある山のこと。
この「須弥山」の考え方に倣って仏教の世界観を石組により表したのが、この庭園です。
心で見て、感じて、気持ちを落ち着かせながらゆっくりと時間を過ごします。
事前予約をすれば、お茶を一服いただくこともできます。
季節の和菓子とともに、庭園美について語らうのもいいですね。
もうひとつの庭園は「医光寺」にあります。
鶴の形を表した池の中に亀島が浮かぶ庭園で、大きなしだれ桜が見事に咲き誇る季節には、多くの人がカメラ片手に寺を訪れます。
日常の疲れを忘れさせてくれる印象深いお庭でした。
医光寺には、七尾城大手門を移築されたと伝わる総門も残っているので、こちらもぜひ見学してみてください。
気持ちいい時間を過ごした後は、海沿いでランチタイム。
個性的な飲食店が多い益田。
次に紹介するお店は絶好のロケーションが自慢の「カフェダイニング柿の木」。
日本海を一望できる店内と、最近増設されたデッキテラスがある開放的な空間で、オムライスやハンバーグなど洋食メニューを中心としたランチが食べられます。
メイン料理にカラフルで新鮮なサラダとエビフライがついてきました。
メニュー豊富で選ぶのに迷ってしまいます。
この日はカキフライや、石焼オムライスも。
運ばれてくる度「おいしそう!」と歓声が上がります。
駐車場もあるので、海岸線のドライブ途中にも立ち寄りやすいです。
そしてもうひとつ、オススメなのが「パン&コンフィチュールmonukka」。
益田で生産されるフルーツのひとつ「ぶどう」を商品化したお店です。
このお店は「田中葡萄園」により運営されていて、季節になるとすぐ隣の建物ではぶどうの販売も行われています。約60年前から三代続く農園で、少量多品種、さまざまなぶどう栽培を行っています。
店名通りパンとコンフィチュールを中心としていますが、7年前からはワインの製造などにも挑戦中。
店内に足を踏み入れた途端、パンの良い香りが漂います。
15年ほど前からパンを提供。1日のうちに何度か焼き上げますが、一番揃っているのが午前11時頃なのだそう。
人気なのは店名がついたパン「モヌッカ」。
ハード系パンにくるみ、クリームチーズ、レーズン入り。
噛みしめる度旨味が広がるしっかりとしたパン。「モヌッカ」とは希少なぶどう品種の名前とのこと。
「瀬戸ジャイアンツと柚子のロデヴ」。クラム(白い部分)が柔らかでもっちり。地元産柚子を練り込んだお店オススメのパン。
コンフィチュールはぶどうがごろごろとしていてフルーツ感があり、さっぱりとしています。
低農薬で作ったぶどうなので、丸ごといただいても安心です。
好きなパンを選んでおいしい益田をお持ち帰り。
お土産にぴったりのお店です。
物欲が満たされたところで、益田の自然に触れ合いに高津川へ。
国土交通省の水質調査で、清流日本一に何度も選ばれている「高津川」。日本の一級河川の中で、支流を含めて唯一“ダムがない”川としても有名で、その透明度には定評があります。
また、この川で育まれる食材「鮎」や「モクズガニ」などは、良質な清流の恵みとして、益田の名物となっています。
高津川の魅力を満喫できるアクティビティといえば、カヤック。
私もさっそく挑戦しました。
パドルの握り方も漕ぎ方も意外や意外、何にも教えてもらわずいきなりスタート(笑)。
でも川の流れを感じながら自然と向き合うということは、理屈じゃないんですね。
深い場所でも、高津川は川底の石ころまでくっきり見える透明度です。
高津川には名物橋がいくつもかかっていて、それらをくぐりながらいつもとは違う、川からの景色を楽しめました。赤い橋りょうが青空に映える飯田橋はもちろん、アーチが何連にもなっている高角橋も素敵です。
途中川岸に上がって休憩。河原でコーヒーを淹れてみんなでゆっくり語らい、リラックスタイムを過ごすことも。ひとり乗り用だけでなくふたり乗りカヤックもあり、一度に30人ほどまで体験できるそうです。
日常の喧騒から逃れ、水の音と鳥の声を聴きながらリフレッシュ。
久しぶりにこんなに広い空を見られて、大自然に包まれる癒し体験になりました。
カヤックで体を動かした後は、高津川にかかる「高角橋」近くのクラフトビールの醸造所でおいしい一杯を。
「高津リバービア 高津醸造所」は、高津柿本神社参道の料亭跡地に2021年3月オープン。地元の農産品を原材料に使ったビールを提供しています。
ホワイトエール、ペールエール、ヴァイツェン、ファームハウスなどビアスタイルも揃い、好みによって楽しめます。
この日は高津川沿いで乾杯!屋外で飲むビールは気持ちがいいですね。
益田旅を楽しんで、この日の宿は駅近のデザイナーズホテル「マスコスホテル」。
2019年オープンで、自家源泉の温泉付き。デザインひとつひとつが洗練されていて、快適なホテルです。
大浴場はプールのように美しく、脱衣所なども清潔感があります。
ホテル内レストラン「MASCOS BAR & DINING」でこの日の夕食。
人気のメニューをオススメしてもらい、出していただきました。
ノンアルコールカクテルも充実しており、この通りのオシャレさ。
「いちごモッツァレラ」は益田産いちごを使った前菜。煮詰めたホワイトバルサミコをいちごに絡めた、あっさりしたメニュー。
このホテルの名を冠した「マスコスハンバーグ」は、粗めに挽いた牛肉のジューシーなハンバーグ。
味付けをシンプルにし素材の味を際立たせた、ザ・肉料理。
この日の和牛ステーキはトモサンカク部位。
ポテトには、柚子を使った自家製マヨネーズが添えられます。
島根県産アナゴを使ったフリット。カリカリの衣に中身はふわふわ。
どの料理もボリュームがあって、食べ応えがあります。
生のり、からすみ、しらすのパスタ。
ミネラルの風味と魚卵のコクが口の中で旨味を掛け算します。
提供される料理に使われる器もオリジナル。
石見焼「宮内窯」、萩焼「大屋窯」などとコラボレーションしています。
その他ホテル内で使われているパジャマ「YUKATA GOWN」や、スタッフが身に着けているエプロンと共に、器の販売も行われています。
1日目の旅程はこれで終わり。
夜はホテルでゆっくり過ごし、明日の旅に備えます。
◆2日目
マスコスホテルの朝食でスタートした2日目。
野菜たっぷりの和洋食。
野菜スムージーやヨーグルトなど、ヘルシーで女性ウケも良さそうです。
朝から元気をチャージして、この日も益田旅を続けます。
訪問するのは、益田のランドマーク「グラントワ」。
「島根県立石見美術館」と「島根県立いわみ芸術劇場」からなる芸術文化複合施設で、地元では親しみを持って「グラントワ」と呼ばれています。
まずは何よりも、この圧巻の建築が素晴らしい。石見地方特産である「石州瓦」」を約28万枚使った赤茶の姿は、存在を知らなくても間違いなく目を引く建物です。
建築家・内藤廣氏によって設計され、内部は、異素材が取り合わされ、間隔を短くして連続させる階段の手すりなど、内藤氏の建築の特徴が見られます。
床材には花梨を用い、独特の赤みが瓦の色になじみます。
回廊に囲まれる中庭には水盤が設置され、日の差し込みによる壁瓦や空のリフレクションが楽しめます。
静かな水面を眺めているだけでも心落ち着くスポット。
益田に来たら、ぜひ足を運んでいただきたい施設です。
一見の価値ありのグラントワを後にして、次に向かったのは「妙義寺」。
ここでは「座禅体験」、「豆腐作り体験」ができます。
ご住職のお話を聴きながら、座禅の基本を学べます。
気持ちを鎮めて心を無にするとは、どういうことなのかを伺いました。
座禅は正しい姿勢で、自分自身と向き合い心を散らさないよう瞑想します。
呼吸を整えてリラックスすることで、落ち着いていきます。
「何も考えないようにしよう」と考えると、逆にいろいろと気になってしまいます。とにかく“何も考えない”がいいそうです。体の力を抜くことも大事。緊張しないようにします。
本堂の静寂が心を落ち着けてくれ、雑念を捨てて何も考えない。
毎日、数十分でもそういった時間を持つことが、忙しい現代には必要なのかもしれません。
さて同じく妙義寺で、豆腐作りも体験しました。
精進料理でもある「豆腐」。座禅とセットで試みたい体験です。
地元「真砂のとうふ」に用いられる豆乳と隠岐のにがりを使って豆腐を作ります。
温度に気を付けながら、ふるふるに固まるまで待ったら出来上がり。
濃厚な豆乳を使っているので、豆の甘味が口の中に広がります。
とろとろふわふわの豆腐は、このまま食べてもおいしいです。
豆腐に合わせるのは、季節の素材を使った薬膳たれ、柚子たれ、梅だれ。
寝かせ玄米のおにぎりとお味噌汁もついてきて、大満足の体験です。
誰もが失敗のない、簡単なのにおいしい豆腐作り。
これはやらない選択肢はないですね!
益田を満喫した最後には、「鶏卵堂」へ。
益田のおみやげと言えばコレ、「鶏卵饅頭」。
ふわふわとしたカステラ生地に白あんが入った、かわいいサイズのおまんじゅう。
今回はなんと、特別に工場を見学させていただきました。
焼きたてはさっくりとして、とろとろの白あんがこぼれんばかり。
口当たりがやさしい黄色い生地は、地元産のたまごをたっぷり使用。甘さ控えめなのもうれしく、何個でも食べられそうです。
発祥は京都のお菓子屋さんだったとか。
そこからレシピを引き継ぎ、今では益田を代表するおみやげとなっています。
焼きたてはサクッとした生地も、おみやげ用はしっとりふわっと。
マスコスホテルの器に乗せて、ティータイム。
もうひとつご紹介したいおみやげは、空港にありました。
「萩・石見空港」では2016年から空港内で養蜂を行い、「空港はちみつ」を生産しています。
敷地内でとれたはちみつは、そのまま瓶詰めされるだけでなく、10品以上の加工品が作られます。それらは主にお菓子が多かったのですが、2020年、新たに「空港ミード」というはちみつで作ったお酒が発売されました。
はちみつを発酵させたはちみつ酒「ミード」。
あっさりとして飲みやすく、味は貴腐ワインのようです。
ワイングラスで飲むのもいいのですが、氷を入れてキリリと冷やして飲むのもおいしいです。
パーティーに持って行ったら大好評!珍しくて、喜んでもらえるおみやげになります。
空港はちみつは、量産することができない貴重な品。
毎年完売する人気のはちみつなので、見つけたら即買いしたい益田の新しいおみやげです。
自然とふれあい、グルメも楽しめ、体験を通してリフレッシュできる町・益田。
旅をしながら何気なく歴史にふれる場面もあり、美しい庭園や古寺に清々しい気持ちにも。
振り返ってみるとじわじわと、「あそこも良かった、ここも良かった。」と、良さが静かに湧き上がってくるような味わい深さのある益田旅でした。
今回行ったエリアはぎゅっとコンパクトにまとまっていましたが、それでもまだまだ、回りきれなかった人気店や隠れたスポットもあるのだとか。
ディープな益田は、通うたびに違った姿を見せてくれるのかもしれません。
西村 愛(にしむら あい)
遣島使(島根県ふるさと親善大使)。トラベル&フードライター、カメラマン。PV数2,600万越えの人気ブロガー。島根県出雲市出身、東京在住。
2007年〜フリーライターとして、航空会社、大手旅行代理店、大手飲料メーカーなどのWebメディア上及び週刊誌の連載等で、主に旅とグルメに特化したライターとして活躍。
共著
「島根 地理・地名・地図の謎 (実業之日本社)」
「わたしのまちが日本一事典(PHP出版)」
「ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)」